過去の精算
私達の関係を中谷君に知られた事に、私は怯えていた。
中谷君が、私に害を及ぼす人かどうかは分からない。彼とは、学生時代は勿論、卒業してからも、話した事ない。だから、本当のところどんな人か知らない。
ただ、彼に悪気が無くても、誰か一人に私達の関係を話したら…
その一人が二人に、二人が四人に…
この小さな町では、直ぐに知れ渡ってしまう。
それが、私には怖いのだ。
子供の頃、前谷君が私と同じ想いでいた事が嬉しかったし、世界から評価される程、立派な医師になった今も、好きだって言ってくれた事が嬉しい。
でも、私はなんの取り柄もない一般人で、良家のお嬢さんでもない。しかも、私の父親は誰だか分からない。
そんな私が、彼に釣り合うわけがない。
八百屋のおじさんや、魚屋のおじさんは、いつも私の幸せを願ってくれてる。でも、町の皆んなが同じ気持ちな訳じゃない。
だから…知られたくなかった。
始まったばかりの関係を…
今はまだ、この幸せを手放したくなかった…
だから、安易に姿を現わす彼に怒りを露わにしたのだ。
そして、私の勝手な我儘のせいで、彼を不愉快にしてしまった。
でも、彼は私を守ると言ってくれた。
目に見えない約束だけど…
もう暫くこのまま彼の腕の中にいよう。
彼の親である、院長や院長夫人に知られる迄は…