過去の精算
翌日から、仕事中にも関わらず、少しでも時間が空けば、彼は私の元へ来て、周りに誰が居ようと、気にする事なく私に話しかけて来る様になった。
それも全く仕事に必要な話でなく、デートしようと口説いてくるのだ。
まったく、何を考えているのやら…
「木村さん、今夜食事に行かない?」
声のトーンを下げるでも無く、寧ろ、周りに聞かせるかの様に話しかけて来る。
勿論、彼の言葉に周りの者は、驚き、そして騒めく。
「予定がありますので、お断りします」
何考えてるの?
病院中の、いや、町中の噂になる。
守ってくれるって言ってたのに、これじゃ針のむしろじゃない!
「木村さん、若先生から電話よ!」
え… また…
今日はこれで何度目だろう…
カウターに顔出すだけじゃ無く、診察の合間にも電話してくるのだ。
電話までも…
もぅいい加減にして!
周りからどんな目で私が見られてるか、前谷君は分からないの!
「木村さん、本当の所どうなの?
若先生から誘われて、やっぱり嬉しい?
優越感に浸ってるでしょ?」
最近は、術後の性欲も抑えてるのか、私が目撃してから、看護師との噂は聞かない。
お陰で、看護師らの性欲の持って行き場に困り、爆発寸前らしい。
「やっぱり、あなたも玉の輿狙ってるわよね?」
「いいえ? 私には分不相応なのは、よく分かってますから!」
「そうよ! あなたには不相応すぎるのよ!
馬鹿な事考えない方が良いわ!
後で泣くのは貴方なんだから?」
ナースからだけじゃ無く、仲間内からも妬みや僻みを受け、毎日辛い日々を送っていた。唯一澤さんだけが、私の味方になってくれてるだけが、救い地獄に仏というところだ。
そして、私が辛い日々を送る事になってる根元の前谷君は、嬉しそうに毎日私の家に通い、私の作った料理を食べ、お風呂に入って帰って行く。
そんな日が2週間も続くと、針のむしろの針が丸みを帯び数も減って来て、少しづつ変わって来た。
「ほら、また若先生よ?
どんだけ暇なのよねぇ?
いい加減諦めればいいのに?
木村さんも、ストカーで訴えるって言ってやりなさい?
私から言ってあげようか?」
「有難うございます。
でも、大丈夫ですから…
何かあったら、院長先生に言いますので?」