過去の精算
「木村さん休憩、お先にどうぞ?」
「じゃ、お先に頂きます」
夜間専用窓口を出て、少し離れた休憩室へと向かう。
夜勤って嫌い。
何度やっても慣れない。
昼間と違って暗いし、院内は冷たく感じる。
ちょっとした物音でも、すごく響き怖い。
今夜の当直の先生って誰だろう?
『っん……あぁ〜…』
『んっ……あっ……』
えっ、なに?
話し声…?
誰かいるの?
『んっ……あっぁ……』
えっ、呻き声?
廊下の先から、布が擦れる様な小さな物音と、人の声らしいものが聞こえる。
えっ!
誰か倒れてるの?
慌てて声のする方へ駆け寄ると、男女が絡み合っていた。
私の聞いた声は、うめき声では無くコトを始めていた女性の喘ぎ声だった。
「嘘っ!」
あっ…
慌てて自分の口を塞いだが、既に遅かった様で、コトを始めていた二人に気づかれてしまった。
「あーあー邪魔入っちゃった!」
と、残念そうに言う男。
絡み合っていたのは、手術着を着た前谷君とナースだった。
「若先生、宿直室で続きしません?」
と、私の事など気にする様子も無く、ナースは彼とこの続きをしたいと言う。
「いや、興がさめた。帰って寝るわ!
何かあったら呼んで?」
彼はナースの頬に(ちゅっ)とキスをすると、私の方へ向かって歩いてきた。
そして、すれ違う際、“おまえ、ここで何してる?” と囁いた。
え?
「あっすいません。休憩室へ向かう際声が聞こえたので…
誰か倒れているのかと思って…
失礼しました!」
私は謝罪して急ぎその場を離れた。
はぁ…
ずっと避けてたのに…
まさか、こんな形で再会するなんて…
あれ?
でも、私って分からなかった?
まぁ分からなくて当然か?
何年も会ってなかったんだから…
分からなかったなら、それで良いや!
さぁ、休憩!休憩!
休憩室行って、お弁当食べよう!