過去の精算

先程、嫌なモノを見た事などすっかり忘れて、休憩室でお弁当を食べてると、突然ドアが開いた。

えっ?

現れたのは、自宅に帰ったはずの前谷君だった。

「弁当か?」

「え? ええ…」

大したおかずの入ってない、お弁当を見られたくなくて、私は慌てて弁当箱の蓋を閉めた。

「わ、若先生がどうしてこちらへ?」

ここは、事務員や作業員が使う休憩室で、医師や看護師には、別に休憩室がある。
ほとんどの先生達は、医局で休憩する様だし、前谷君には、自室が与えられてる。
況してや、夜間のこの時間に私以外が、休憩室を使う訳がない。
だから、ここに来たのは何か余程の事が有るのだろう。

あっ!
もしかして…口止め?

「あ、あの…今夜見た事は誰にも言いませんので…ご心配なく…」

「別に口止めに来たわけじゃないけど?」

え?
じゃ、何しに来たの?

「コーヒー入れてくれる?」

コーヒー?
「……インスタントしか有りませんが?」

「うん。 それで良い」

「砂糖とミルクは?」

「要らない」
私がコーヒーを入れてる間、前谷君は疲れているのか、肩や首を回していた。

「疲れている時は、糖分摂った方が良いと聞いてます。 宜しかったらどうぞ?」

私は、コーヒーと一緒にチョコを出した。

「変わらないな?」

「え?」

「俺さ、オペ後はなぜか性欲が増すんだよね?」

「・・・・・」

「大きなオペになればなるほど…多くの興奮物質が分泌される。
人によっては、糖分を欲する人もいるらしけど、兎に角、誰でも良いから抱きたい」

誰でも良いから抱きたいって…酷い男!

「だが、一度抱いた女は二度と抱かない。
後々面倒だからな?」

やっぱり…
あの噂は本当だったんだ?

「あまり良い趣味じゃ有りませんね?
病院の評判に関わると思いますが?」

「病院の評判ね…
そんな事考えた事も無かったわ!」

まるで自分は部外者の様な発言に、私は怒りを覚えた。



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