過去の精算
今日、院長先生に報告する事になっている。
院長先生から何と言われるだろう…
やっぱり反対されるだろうか?
院長先生の事は、子供の頃からよく知ってる。
優しくて、町の人達を家族の様に大切にして、困ったことが有れば、相談に乗ってくれるし、助けてもくれる。
私もどれだけ助けられたことか…
そして、どの患者にも真っ直ぐ向き合ってくれる医者の鑑(かがみ)のような人だ。
でも、息子の嫁となると…
話は別だろう。
私で許してくれるだろうか?
院長婦人はどうだろう?
緊張の度合いが尋常じゃない。
「あー緊張する。 本当に大丈夫かな…?」
「そんなに緊張しなくても、大丈夫だって?
院長は喜ぶと思うよ?」
「だと良いけど…」
私にはずっと気になってる事が有る。
彼がいつも院長先生を “ 院長 ” と呼んでる事だ。
勿論、院長は院長なんだけど、今日みたいな時は、父さんとか、親父って呼ぶんじゃないのかな?
もしかして、前谷君も緊張してる?
「ねぇ、ひょっとして前谷君も緊張してる?」
「…あ、うん。 …緊張してる」
そっか?
そうだよね?
緊張するよね?
「お袋は、今日は出かけてて居ないけど、反対はしない筈だから…」
院長夫人は苦手だから、居ないと聞いただけで、少しだけ気持ちが楽になる。
「うん!」
それでも緊張はする。
彼が側に居てくれるから、きっと大丈夫。
院長宅へお邪魔すると、リビングへと案内された。
「母さん!」
リビングに入るなり、驚きの声を上げる彼に、私は不安になった。
え?
そこには院長先生だけじゃなく、彼の母親である院長婦人もいたのだ。
居ないと聞いていた、院長婦人を見て、私は一気に緊張がたかまってしまった。