過去の精算
「あ…あの……」
彼へ私の緊張が伝わったのか、“大丈夫だから俺を信じて” と囁かれ、手を強く握ってくれた。
彼を信じてれば大丈夫。
きっと彼と幸せになれる。
「おめでとう!」
え?
思いもしてなかった、院長夫人からの言葉に、多分、今の私は阿保ヅラして居るだろう。
それだけ、院長夫人である彼女から、お祝いの言葉を貰えるなど、私には考えられなかったのだ。
それは、楓 銀行頭取のお嬢さんとの縁談話に、院長夫人は乗り気だと噂に聞いていたからだ。
だが、緊張など必要無かったのか、院長婦人は私達へ更に祝福の言葉を笑顔で贈ってくれた。
「本当に嬉しいわ!」
だが、院長先生からは、なにも言葉は無く、私より、寧ろ院長先生の方が、緊張してる様に見えるのは気のせいだろうか?
「これで、やっと正真正銘の後継ね?
和巳良くやったわ!
お母さん、とても嬉しいわ!」
院長婦人の言葉に、一瞬彼の顔に陰りが見えた。
前谷君…どうしたの?
「ねぇなんの話?」
正真正銘のってどう言う事…
彼は後継じゃなかったの?
私の問い掛けに、彼はなにも答えず、彼の代わりに答えたのは院長婦人だった。
「残念な事に、和巳はまだ後継者じゃ無かったのよ?」
え?…そうなの?
別に、彼が病院の後継だろうとなかろうと、私には関係ない。
彼が好きだから…
愛してるから…ずっと側に居たいだけ。
「そうですか」
だが、私がもっと驚く話を、院長夫人はこの後暴露するのだ。
「和臣は主人の実子じゃないのよ?
主人の実子はね?…あなたよ?」
は…?
院長婦人は、何をどう思ったのか、私が院長先生の娘だと言う。