過去の精算
「下着が盗まれた事、どうしてあなたが知ってるんですか?」
「…それは…ほら! 警察の人が訪ねて来た時に聞いたのよ?」
警察が病院まで訪ねてきたなんて話、私は聞いてない。
それに…
「警察の方には、下着が盗まれた事は話していません!」
「え…それじゃ、和臣から聞いたんだったかしら?」
院長夫人は彼へ尋ねる様に言った。
だが、下着を盗まれたなど、そんな話は知らない彼は、なぜか怒りを露わにした。
その怒りが、誰に対してのものか、この時の私は分からなかった。
「俺は話してない!
それどころか、下着が盗まれたなんて、今の今まで知らなかったんだからな!」
彼も知らなかった事に、院長夫人は観念したのか、自分がやったと明かした。
一向に結婚話しが出ない事に、業を煮やした院長夫人は、泥棒が入れば、部屋を出て彼に助けを求めると思ったと言う。
なんて事を…
母の位牌まで壊して…
「そんな事、今はもうどうでも良い事じゃない?
二人が結婚する事になったんだから、これでやっと、病院は私達のモノになるわ?」
あんた達三人ともクズだわ!
私(ひと)の人生なんだと思ってるの!?
「未琴、俺の話聞いて…」
今更、言い訳なんて要らない!
(バッシン!)
“ 最低! ” と言って、私は力の限り彼の頬を叩いた。叩かれた本人は、悔しそうに下唇を噛んでいたが、代わりに院長婦人は怒り、傷害罪で訴えると騒いでいる。
だが、そんな事私にとってどうでも良い。
「訴えたきゃ訴えれば良い!
私はなにもいらない。
財産もこの病院も何もいらない!
でも、婚姻用紙にはサインはしない!
あんた達で勝手にすれば良い。
これ以上私を巻き込まないで!
もう私に関わらないで!」
私はそのまま院長宅を飛び出し、母のお墓のある桜の丘公園へと、歩いて向かった。
他人(ひと)の眼も気にする事なく、溢れる涙を掌で拭いながら、母に会いたい一心で歩いた。