過去の精算
夜道を、とぼとぼ家へと歩いていると、前から走り寄る車のヘッドライトが顔に当たり、眩しくて手で顔を覆っていると、その車は私の前で止まり、運転席から誰かが降りてきた。
だれ?
「未琴…あー良かった。無事で…
ずっと探してたんだぞ?
電話にも出ないし?」
探してた?
あー、財産放棄の書類にサインしなかったから?
「もしかして、私が自殺でもすると思った?
クズ男の為に?」
私の酷い言葉にも彼は何も言えず、ただ謝るだけだった。
「私はそんな弱い女じゃないわ!
心配してくれなくて結構!
もう、私に関わらないでって、言ったはずよ!?」
彼の横を通り過ぎ様とすると、話を聞いて欲しいと彼は言う。
「今更、話なんて無いでしょ?
病院もなにもかも、貴方達が好きにすれば良い。
私は何も要らない!」
“ さよなら ” と、言って立ち去ろうとすると、彼は、家まで送らせて欲しいと言う。
「知らない人の車に、乗ってはいけませんって、幼稚園で教わるのよ?
知らなかった?」
「・・・・・」
すると、今度は後部座席から、もう一人降りて来て、私の前で土下座をした。
「すまなかった…
私が弱かったばかりに…
沙織にも未琴にまで辛い思いをさせてしまった。
許してくれとは言わない。ただ、少しで良いから話を聞いてくれないか?」
「何を今更聞けと言うんですか!?
貴方は、母と私を捨てた。
その時点で、貴方と私の縁は切れてる!
母がどんな思いだったか…
貴方なんかに…あんたなんかに分からない!」
「未琴、親父も苦しんでたんだ、分かって欲しい!」
親父…?
ずっと違和感があった。
彼が、この人の事を父さんとも親父とも、呼ばない事に…
今、ようやく分かった。
多分、彼が本当の親子ではないと知ったのは、高校三年の時だろう…
それまでは、確かに院長を父さんと呼んでいた。
高校三年になるまでは…
あの頃知ったから、よそよそしくなり、私と目も合わさなくなったんだ。
再会してからは、ずっと院長と呼んで、一度も父さんとも、親父とも呼んだ事はなかった。
私と二人っきりの時でさえ…
でも、彼の中でもケリがついたのだろう。
私が財産全てを要らないと言った事で、彼らに全てが渡る。
良かったじゃない?
「土下座なんてやめて下さい。
地位もあるお年寄りには辛いでしょ?
そんな事しても、私は貴方を認めないし、許さない!
何をどう言われようが、私と貴方は他人なの!」
泣きながら謝る院長へ “ 母を死なせたのは貴方よ! 人殺し! ” と罵声を飛ばし、私はその場から走り去った。