過去の精算
お店を閉めると、ママがひとり残ってくれた。
多分、私の事心配しての事だろう。
「随分呑んでたみたいだけど、大丈夫?」
「全然大丈夫です」
「そう? じゃ、もう少し私に付き合ってくれる?」
ママはそう言うと、奥くから高そうなワインをもって来た。
以前の事といい、この店には似つかわしくない高級なお酒が、何故か多い。
私は慌てて、ママの手を止める。
「ママ!…これって、ママの奢り?」
ママがコルクを抜く前に、それだけは聞いておきたい。
「どぅしようかしら?」と微笑むママ。
「わ、わたし飲まないから!」
「冗談よ! 心配しなくても、私の奢りよ?」
ママの返事に安心した私は、“ じゃ!” と、手を離した。
グラスに注がれたワインは、ブラックベリーの様な綺麗な赤ワイン。
色はブラックベリーだったが、口に含むと重厚感のある味わいで、コーヒーやチョコレートにも似た味わいがある。
そして、カウンターのライトに照らされた、グラスの中のワインは、ブラックベリーより、奥深い魅力を感じさせる宝石、ガーネットと言った方が合う。
「ねぇえ?
詳しい事情は、私知らないけど、仕事辞めたら、彼の事忘れられる?
町離れたら、彼の事諦められるの?
あなたも、彼を愛してたんでしょう?」
そう…愛してた。
「分かんないです…
ただ、涙は出ます。
それが、悲しくてなのか、悔しくてなのか…
それとも…」
「そう。
涙が出る間は大丈夫ね?」
ママは“ おやすみ “ と言って帰って行った。