過去の精算
カウンターで飲んでいた筈なのに、何故か控え室のソファーの上で、眼が覚めた。
「わたし…いつ移動したの?」
昨夜はホントよく飲んだ。
以前は本職があったから、ある程度抑えていたけど、浴びる程飲んだのは初めてかもしれない。
お風呂入りたい。
けど、流石にお店にはお風呂は無い。
ネットで探した近くの銭湯へ、着替えだけを持って入りに行く事にした。
銭湯の入り口には、【松の湯】と染められた、少し色あせた暖簾がかけられている。
「本当に良いのかな?」
ネットには、石鹸もシャンプーも要らないと書いてあったけど…
初めての体験に少しワクワクする。
暖簾をくぐり、古びた木の引き戸を引くと(ガラガラ)と音がして、中からは “ いらっしゃい ” と、優しい声が聞こえて来た。
思い切って中へ入ると、奥からはガヤガヤ声はするものの、入り口には誰も居なくて、お金をどうしたらいいのか分からない。
「あの…」
声を掛け様としたところに、反対側の戸が開き、また、優しい声で “ いらっしゃい ” と聞こえて来た。
え?
男湯と女湯を仕切る様に、入り口に高く設けられた見張り台。
どこから聞こえて来たかと思ったら、そこの中からだった。その中を覗くと、小さなお婆さんがちょこんと座っていた。
「あの…お婆さん、お金…」
千円札を出したが、お婆さんは気がつかないのか、見えてないのか、反応が一切ない。
困っていると、再び男湯の戸が開いて、作業着を着た数人の男性が入って来た。
「ばぁちゃん、生きてっかい?
あれ、アンタ見ない顔だね?」
「初めてで…」
「あー、で、金どうしたら良いか困ってる訳だ?」
「はい…」
「そこの箱に、200円入れれば良いんだよ!」
確かに見張り台の中の木箱には小銭が入ってる。
「あの…千円札しか無くて…」
「だったら、箱の中で両替すりゃ良いんだよ!」
「えっ! 勝手にですか?」