過去の精算
「ああ、ここは馴染みの客しか来ないからな?
昔からそうしてるんだ」
「でも…」
「仕方ないなぁ、俺が見ててやるから、両替してみな!」
言われるまま、木箱へ千円札を入れて、お釣り800円を貰い、彼に確認して貰った。
「難しい事なんて無いだろ?」
だろ?って…
両替する事は難しい事では無い。
私だって出来る!
ただ、後ろめたさを感じると言うか、気がひけると言うか…
兎に角、悪い事しようと思ってなくても、他人の財布の中を触ってる様で、気分が良いものではない。
「あっそれから大事な事、教えてやるよ!
場所によっては、ここから丸見えの所あるから気をつけろよ?」
「丸見えに注意しろよ?」
男はニヤッと笑ってそのまま中へ入って行った。
彼の姿が無くなると、男湯の方の脱衣場が見え、男の人の裸が見えた。
えっ!
「キャー!」
私の叫び声の後に、数人の男の人の笑い声が聞こえた。多分、私の事を笑っているのだろう。
あの笑いってそう言う事だったんだ?
彼の忠告の通り、入り口から見えない所のロッカーを使って、浴場へと入った。
浴場はとても広く、壁には江戸時代の旅人の絵巻が描かれていた。
「素敵…」
「おーい、新入りのねぇーちゃん!
入り方分かるか?」
男湯から聞こえて来た大きな声は、さっき入り口で会った人の声だ。
彼の声で、女湯にいた人達が一斉に私の方を見た。
え?
新入りって私の事?
嘘でしょ…
恥ずかしい…無視しよう!
だが、再び呼び掛けられてしまい、これ以上無視もできまいと、“ 分かります!” と応えた。
私だって、色々調べて来たんだから!