過去の精算

暫く車は走り、連れてこられたのは、学生時代よく来てた図書館だった。

「懐かしいなぁ?」
彼の言葉に驚き、私は彼を見て目を見開いた。

え! 覚えてるんだ?

私も久しぶりで懐かしい。
母が倒れ、大学を諦めてから、ここへは一度も来てない。
あの頃の彼は、いつも疲れている様子で、私はいつも、彼の為に鞄にチョコを入れてたっけ…

「少し歩かないか?」

「え?」

「この時間なら、図書館に来る人も少ないだろ?」

確かにこの時間なら、人は少ないと思う。
それに、車の中で二人っきりでいるより、歩いてる方が気が楽かもしれない。

「この先にイチョウの木があったよな?
まだ、残ってるかな?」

「え?」

「君も久しぶり?」

「えっ?ええ」

「高校の時は毎週来てただろ?」

やっぱり…
私だと気付いてたんだ?
「私だって気づいてたんですね?」

「そりゃー気づくでしょ?
この町の人口考えたら、君の様な綺麗な人はそう多く無いし、あの頃と全然変わってない。
変わったと言えば、眼鏡掛けたくらい?」

「まえた…若先生は、昔と随分変わりましたね?」

「若先生か…」

「お世辞なんて言える人じゃなかったし、
モテはしてたけど、あんな…」

昨夜の事を口にしようとしたが、大きなお世話だと思って口を噤んだ。

「昨夜の事、昔の俺じゃ考えられない?」

「私、先生の論文読みました。
世界に認められる医師だなんて、凄い有名人ですね?」

「君は、なぜ医師にならなかった?
父親と同じ外科医目指してたんじゃないのか?」

「あー子供の頃、そんな無謀な夢語ってましたね?」

「何が無謀だよ⁉︎
君は誰よりも努力して、誰よりも優秀だった。
T大医学部にも合格しただろ!
なのに何故、うち(前谷総合病院)の事務員なんてやってる!?」

「なぜって、事務員として働いてるからです」

「違う!
なぜ、医者じゃないのかって聞いてるんだ!」

「ご存知でしょうけど、医者になるには、凄いお金がかかるんです。
母一人子一人の家庭には、医者になるなんて無謀だったんです。
母が倒れて、自分がどれだけ母に無理させていたのか知りました」

「金の事なら院長に相談すれば、なんとでもなった筈だろ!?」

「ええ。
院長先生には、大変お世話になりました。
入院費を分割にしてもらったり、母の葬儀の時も、ホントお世話になりました。
院長先生には感謝してもしきれません」





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