過去の精算

そして、私に付き添って来ていたママも、証拠ならここにも有ると言って、テーブルへ2種類の領収書の写しを出した。

1つは常連客の鈴木さんが務める薬品会社への領収書の写しで、但し書は全て接待費となっていた。
そして、もう1つは何故か同じ日付で同じ金額の領収書の写しだったが、なぜかそれには、宛名は書かれておらず、再発行の印の押された領収書だった。それもうち(ライオン)以外のお店の物(領収書)もある。

これって…どう言う事?

ママの話では、鈴木さんと事務長が一緒に来店した際の支払いは、毎回鈴木さんが払いはするが、翌日になると事務長から連絡が入り、鈴木さんが領収書を失くしたから、再発行して欲しいと頼まれていたと言う。
だが、同じ領収書を出す事は出来ない為、それなら、再発行の印を押した物で良いならと承諾したと言う。
事務長は自ら領収書を一冊用意し、ママに領収書を書かせると、何故か再発行の印の押す場所まで事務長は指定したと言う。
事務長の行いを、不可解に思ったママは、他のお店のママ達と協力して控えを取らせて貰っていたと言う。

え?
どう言う事…

私が不思議に思っていると、その答えを前谷君が教えてくれた。
領収書の中におかしな物を見つけ、調べて見ると、ママの店界街の領収書だけが、一度水に浸した形跡があったと言う。

領収書を水に浸した…
何の為に?

「事務長の机の中を調べさせてもらった!」

前谷君の言葉に事務長は、“ 他人(ひと)の物を勝手に!” と怒りを露わにしたが、出された領収書を見て何かを悟った様で、事務長は小さくなった。

なに?
その領収書が何か?

事務長の机の中にあったと言う領収書は、一部分だけ細工がされている様に見えた。

「これは…?」

「糊が塗ってあるのよね?」と、言ったのはママだった。

「今の若い人は文通なんて物はやった事ないでしょうけど、私の若い頃は、文通が流行っていてね?
日本全国の人達と手紙を交わしていたのよ。
今みたいに携帯電話なんてないし、勿論、ネットなんてものもなかったから、遠くの人達との情報交換は手紙だったの。
でも、切手代って馬鹿にならないのよ?
それで何処の誰が考えたのか、切手を貼った上に糊を付けて出すと、良いと言う噂が流れたの…」

切手を貼った上…?
なんの為に?

「手紙を受け取った人は、封筒を切手の周りだけを切り取り、それを水に浸すと糊が溶けて消印スタンプが消えて切手も剥がれる、そして再びその切手が使える。
そうやって何度も同じ切手を使っていたのよ?
犯罪とも知らずに」

「え? じゃ、これ」

自ら領収書を用意して、再発行の印の押し場所まで指定したのも…
病院から接待費としてお金を盗む為の偽造…?




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