過去の精算

全てを見破られた事務長は、罪を認め院長へ土下座をして謝罪した。
そんな事務長に院長は、頭を挙げなさいと言ったのだ。

「本当の君は真面目で、こんな大それた事をする男では無い事を私は知ってる。
先代の父の時から、君にはお世話になって来たんだからね?」

「院長…」

「君が横領した分を返してくれるなら、私は君を訴えはしない。 どうかな?」

院長の言葉に、事務長は涙し東京に買ったマンションも売り、全てを返すと約束した。
そして院長夫人に関しては、夫人名義の口座差し押さえとホストに買い与えたマンションと車の売却そして、夫人との離婚協議を弁護士に頼んだ。

「私達の結婚は確かに間違っていた。
そう言う点では、みち子、君も被害者かも知れない。
だが、この病院の名義は私になっていても、実際は町の人達の物なんだよ?
君に、それを分かって貰えなかった事は、残念で仕方ない。
ただ、どんな気持ちだったにしろ、和臣を立派な外科医に育ててくれた事には感謝する」と院長は夫人へ“ 有難う ” と感謝の言葉の言った。

夫人がホストへ貢いだものは、マンション以外にも数多くあるらしかった。
だが、マンションと車以外の物は離婚に際しての夫人への慰謝だと院長は言った。
そして、もしそれが不服なら、横領犯として訴えさせて貰うと言うと、夫人は首を振り不服は無いと言った。

「親父!
本当に二人を許すつもりかよ!?」

院長の判断に、前谷君は納得がいかない様だ。
勿論、私も納得いかない!

「事務長が行なった事は、確かに法的にも罰せられる行為だが、彼にも家族がある。
なにも関係無い家族を、世間から白い目で見られる様な事だけは、私はしたくない」

「じゃ、お袋だけでも!」と言う前谷君に、院長は首を振る。

「彼女を訴えれば、事務長が共犯だと言う事が表沙汰になってしまう」と院長は言った。

そして、彼に自分の母親を訴えさせたく無いとまでいった。

「親父…」




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