過去の精算

「ただ、親父の記憶があるうちに、話だけ聞いてやって欲しい」

「なんで…?」

「え?」

「貴方はこの人が憎くないの?
自分が継ぐはずだったこの病院を、この人は私に継がせ様としてるのよ?」

「確かに…初めは憎んでた。
でも、真実を知った今は、憎んでない。
寧ろ、感謝さえしてる」

なぜ、感謝が出来るのか私には分からない。

「じゃ、私の事は…」

「憎んでた」

やっぱり…

「いや、違うな…?」

え?

「悔しかったって、言った方が正しいな?」

自分の病院を取られそうで悔しかったんだ…?

「前にも言ったけど、俺は高校の時、君に恋をした。

君は、頭が良くて頑張り屋で…
何より、他人を思いやる気持ちを持ってた。
それは、今も変わってないよな?」

「そんな話されても、この人を助ける気にはならない!」

「高校生になっても、親父が学校行事に来るのは、俺の成長を見る為だと思ってた…
でも、2年の終わりに知ったんだ…」

やっぱり、急に彼の様子が変わったのは、私の事を知ったからだったんだ。

「親父は、お袋に病院は渡さない。
病院は未琴に渡すって…話してた。

初めは何の事か分からなかった。
未琴と、親父がどんな関係なのか…
で、お袋に聞いたんだ。

話を聞いて、ほんとショックだった…
俺が親父の実子じゃ無いって知ってね?
学校行事へ参加してたのは、俺を見に来てたんじゃなくて、君を見に来てたんだと知って…

あの時は正直恨んだよ?
君をと言うより、この世の中の全てをね!
だから、俺は逃げる事にした。
醜い自分を君に見せたくなくて…」

私に見られたくなくて?

「大好きな親父の眼は、いつも君にあったんだ。
羨ましかった…
君が、親父の実の子である事が…」

私を憎んだじゃなくて、羨ましかった…?




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