過去の精算
「夜の仕事をしてる人の中には、保険に入りたくとも、入れない人がいる。
当時の松の湯は、家を持たない人達の為に、月に何度か無料開放していた事もあって、高架下で暮らす人達も訪れるだろうし、夜の仕事の人達も診てあげれると沙織が言ってね?
松の湯の前をお借りする事にしたんだ。
それからは、ずっと松の湯の前で診察してた…
私が父に屈するまでは…」
屈するまでって…なにが?
「私が無償で薬を渡していた事で、病院の経営が苦しくなっていたんだ。
保険に入っていない人への診察も薬代も、国は負担する事は出来ないからね?」
多くの人達を救おうとして、病院の危機を招いてしまった…って事?
「先代である、私の父が困っていた所に、融資をしてくれる企業が現れた。
但し、融資には条件があった。
融資先の娘と結婚し、その娘のお腹の子を実子として育てる事が条件だった」
それが…今の院長夫人と彼、前谷だった…?
「私は迷った…
その時、既に沙織は妊娠していたし、私は沙織と結婚するつもりだったから…
でも、私が安易に始めた事で病院の危機を招き、病院を必要としてる、この町人達を見捨てる事になる」
母と町の人達の命どちらを選ぶか…
迫られたって事?
「私が苦しんでいる事を察した沙織は、自ら別れを口にした。
勿論、そんな事受け入れられないし、沙織を手放したくなかった。
でも…私にはどうする事も出来なくなっていた」
院長は、自分が返事をする前に、先代が融資を受けてしまっていたと言う。
「先代も、この町の人達を想っての事だったし、私が招いた事でもあったから…」
皆んなが…この町の人を想っての事…