過去の精算

言葉と裏腹に怒りを露わにする私を、彼が私の怒りを抑えようとする。

「じゃ、俺の話を聞け!
君が病院を継がなければ、法律上あいつと、俺のモノになるんだぞ?」

「良いんじゃない。 それで!」

「俺の分は兎も角、あいつはまたこの土地を売ると言いかねない。
そうなれば、必然的にこの病院は無くなる。
この町から病院がなくなるんだ!
君はそれで良いのか?
君と君のお母さんが守って来た、この町の人達を危険な目に合わせても?」

病院が無くなる…
町の人達を危険な目に合わせる…

「隣の町には、小さな内科の個人病院しか無い。
手術が必要な怪我や病気になった時、検査は?
個人病院には血液検査する機械は備わってない。
何日もかかる、委託へ頼むのか?
軽い捻挫かもしれなくても、何時間もかかる遠く離れた大学病院に行くのか?」

「・・・・・」

「この病院が有れば、遠く離れた病院へ行く必要も無いし、町のみんなも安心出来るんだ!」

じゃ、あなたの気持ちはどうするの?

「多くの人達の安心の為に、個人の気持ちは無視しろって言うの?」

「君だって、この町の人達を大切にしてたろ?
この病院は、この町になくてはならないって!」

「…でも…
前谷君はそれで良いの?
高校生の時、苦しんだんじゃないの?
父親が違うって知って?
だから、海外へ逃げたんでしょ?」

「ああ、苦しかった。
君から父親を奪った事に苦しんだ。
実子じゃ無いから、親父は俺に冷たいんだって!
でも、違った。
未琴が持ってる医学雑誌、あれは全て親父から貰った物だろ?」

え?

うちにある医学書は、私が物心ついた時からうちにあった。
でも、医学雑誌は全て、院長に貰ったものだった。

それが何?

「あれは、俺が親父に送ったものだ。
離れていても俺は頑張ってると、親父に認めて欲しくて、俺の事が記載された物を親父に送っていた。
どんな小さなコメントでも、俺の事が記載されていれば親父は読んでくれていたんだ。
その証拠に、俺の事が書いてあるページの右上には折り跡が付いてた。
君は、絶対そんな事しないだろ?」

確かに雑誌だろうと、私は本を傷つける事はしない。どんなモノだろうと、好きで側に置くものを傷つける事はしたくない。
物であろうと人であろうとだ。




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