過去の精算
「親父は冷たく当たってたんじゃない。
俺を試していたんだ。
どれ程の意思を持って、医者になろうと思ってるか?
君との結婚の承諾を貰う前日、親父は全てを俺に話してくれた」
「じゃ、もうこの人を許してるの…?」
「ああ、だからこそ、少しでも早く手術して、町の人達の為に長生きして欲しい」
なにも言えない私に、彼は微笑み言う。
「君が、俺を思って言ってくれてるのは分かる。
でも、俺の心はもう泣いてない。
君も素直になったらどうだ?
分かってる筈だ。
君がここを守って行くのが一番良い事を?」
「でも…私は医者じゃない」
「優秀な医者はいくらでもいる。
俺で良ければ…」
良ければ?
「優秀な医師を紹介する。
親父のオペも信頼出来る医師に頼んである」
「ある。って…あなたがするんじゃないの?
血は繋がってないとは言え、長年親子だった訳だし、他の医師に頼むのが良いと思う。
俺はこの件が解決したら、向こう(ニューヨーク)へ戻ろうと思う」
っ!?
戻る…って…居なくなるの?
じゃ、私は…
「許さない!」
「え?」
「この人が手術する事なんて許さない!」
「未琴ちゃん!?
何を言い出すの?
どんなに憎んでても、それは言っちゃダメな事よ!」とママは私を叱責した。
「この人を手術するのは、彼しか居ない。
彼が執刀しないなら、私は認めない!」
難しい場所にあって、記憶障害が出るかもしれないのに、他人には任せられない!
「ちょっと、未琴ちゃん!
そんな無理言っちゃダメよ!
どんな医師だって、身内の手術となると動揺が出てしまって、危険だって聞くわ?
ましてや、難しい手術なら尚更…」
私の知らない母を忘れさせない!
この人が死ぬまで、私の母を想い続けさせ、私に償って貰う!
その為にも…