過去の精算
自宅へ帰ると、そのまま玄関にへたり込み、夜が暮れるまで動く事も出来ず、暫く玄関にいた。
その日は食事もしないで、ただ何度も歯を磨き、お風呂に入り体を洗った。
体が赤くヒリヒリするまで、彼の感触を払拭する様に何度も体を擦って洗った。
日が暮れれば、朝も来る。
昨日、あんな事が起きたなんて信じられない。
それでも、同じ日常がくりかえされる。
私には与えられた責任と仕事がある。
あまり眠れなかったが、仕事を休む訳にいかず、
着替えを済ませて、いつもより早めに自宅を出た。
「あら、木村さん随分早いのね?」
声を掛けて来たのは、若い男性の運転する車から降りて来た院長夫人だった。
『ミチさん、今夜も店来てくれる?』
運転席から降りて来た、いかにも水商売って感じの男性は、院長夫人の腰を抱いた。
「ええ、勿論。
今夜も貴方に会いに行くわ?」
二人は私の事など気にする様子もなく、抱擁していた。
まさか、ホストクラブの帰り?
院長夫人は、毎晩、隣町のホストクラブへ通ってるらしいと噂を聞いた時、まさかと思ったが、本当だったんだ?
前谷君と言い、この親子はなに考えてるのかしら?
「・・・おはようございます…」
「おはよう。この間は和臣の歓迎会、あなた参加してなかったわね?
和臣の歓迎会より、大切な用でもあったの?」
どんな予定があろうと、あなたに関係ないと思うけど…?
自分の息子の為に、全ての人が第一優先に時間を割いてくれるとでも思ってるの?
あんな性欲むき出しの男の為に?
「すいません……ちょっと風邪気味だったもので……遠慮させて貰いました」
「そう?
体調が悪かったなら、仕方ないわね?」
「で、もう和臣に会った?」
「えっええ、昨夜、夜勤の時に……」
「そう?
今度一緒に、食事でも如何かしら?
主人も貴方のこと気にかけてるのよ?」
食事?
なぜ私が?
「ありがとうございます。
そろそろ、仕事の準備が有りますので、これで失礼します」
その場を早く離れたくて、断りを入れ急いで通用口へと向かった。