過去の精算
休憩を終えて持ち場へ戻ると、再び自分のすべき仕事をする。
「林さん、本日のお会計は…」
『木村さん、今月の支払いちょっと待ってもらえないかしら?』
あっそっか…
「院長先生にはお話してありますから、大丈夫だと思いますけど、先日の退院時に、高額療養費制度があるってお話ししましたよね?
申請に行かれました?」
高額療養費制度とは、病院や診療所で支払う医療費がひと月に一定額(自己負担限度額)以上になった場合に、申請することで超過分を払い戻してくれる公的健康保険の制度で、自己負担限度額は所得区分によって5つにわかれている。
林さんの様に、毎月高額な治療を受けている方は、是非この制度を利用すべきなのだが…
「役所に行くにも、おばあちゃんがいるから、なかなか行けないのよ……」
林さんは、自分が病気のうえ、亡くなったご主人のお母さんの介護もしている。
林さんのお義母さんは痴呆症で、目が離せない状態なのだ。
仕事は翻訳をされてるそうで、自宅で仕事をしながら、介護をされてる。
今日の様に、林さんが治療に来られる時は、介護士の方に、お義母さんをお願いしてるそうだが、回数が多ければ多いほど、お金もかかる。勿論、介護保険も利用しているだろうけど、タダではない。
以前聞いた話だと、林さんのお義母さんは、他人を家に入れる事を嫌って、暴れると聞いた事がある。だから、介護士にも頼み辛いと…
「明日、私仕事休みなんですけど、林さん役所に行かれませんか?
おばあちゃんの事は、私がみてますから?」
「でも……」
「久しぶりに、林のおばあちゃんとお話ししたいんです。お漬物の美味しい作り方、教えてもらいたいし?」
林さんのおばあちゃんは若い頃、料理教室の先生をしていたらしく、料理の話だけは、昔を思い出すのか、楽しそうに話してくれる。
「良いのかしら?」
「はい。じゃ、明日9時に伺いますね?」
「お願いします」