過去の精算

15時を過ぎた頃、窓口に座ってる私のところまで、前谷君がやって来た。

「帰り送って行くから、待ってて?」
と、だけ言って戻って行った。

はぁ?
ちょっと、言い逃げかよ!?
もぉ!
この後の事、どうしてくれるのよ!

「ねぇ、いま、若先生に待っててって言われなかった?
もしかして付き合ってたりしないよね?」

やはり聞こえたらしく、隣で仕事してた井上さんからの突っ込みが入った。

「まさかっ! 違いますよ?
今度、同窓会の話があって、皆んなが若先生に会いたいそうで、その話だと思います」

ちょっと苦しい言い訳だったかな?
今まで、同窓会の事なんて話した事なかったし、(勿論、行ったこともない)私に友達が居ないのは、皆んなの共通認識の1つだ。

「そっか!
だよね、若先生と木村さんじゃ、釣り合わないもんね?」

大きなお世話だ!
まぁ、付き合う気は無いのだから、そんな事どうでも良いけどね?

仕事が終わると、急ぎ着替えを済ませ、帰る支度をする。

「若先生を待ってるんでしょ?
何処へ行くの?」

井上さんの問いかけに、“ いいえ、今日は用があるので帰ります ” と返事をして、急ぎ更衣室を後にする。

通用口へ急ぐ中、腕時計を見ると、17時10分。
今迄で最速かもしれない。

この時間なら、先生達は病棟を回るか、カンファレンスをしてる頃、だから彼に捕まる事は無い。

通用口を出て、彼が居ないことにホッとする間も無く、院長夫人が居るのに気がついてしまった。

「お疲れ様?」

嘘…だよね…?
「……お、お疲れ様です」

「お昼は逃げられたけど、今回はそうは行かないわよ?」

「いえ、逃げた訳では……」

「あら、逃げたんじゃ無いのね?」

「え、ええ……」




< 23 / 184 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop