過去の精算
前田先生に押し切られる様にして、連れてこられたお店は、私にはちょっと敷居の高いお店だった。
「好きな物頼んで?」
「はぁ…・・・」
私は前田先生に差し出されたメニューを受け取った。しかし、
「あっごめん。
メニュー読めないないよね?
僕が適当に頼んで良いかな?」と言って、前田先生はメニューを私から引き取った。
メニューに書かれたフランス語くらいなら分かる。
独学だが、私もフランス語は勉強した。
ただ、値段が値段だけに、頼み辛かっただけだ。
でも、ここは先生にお任せする方が、良いのだろう…
「ええ。先生にお任せします」
結局先生はメニューを指差し、おススメコース料理を頼み、“ これに合うワインを! ” と言ってワインを頼んだ。
この人、本当にフランス語分かるのかな?
まぁ、そんな事どちらでも良いけど…?
料理が運ばれて来た時、私の鞄の中の携帯がバイブした。
「すいません。ちょっとメールが入った様なので、見ても良いですか?」
「うん。良いよ?」
メールの相手は、前谷君だった。
内容はくだらない内容だが、一応返しておかないと後で煩そうだから、適当に返しておいた。
するとまた直ぐに、バイブがメールの受信を知らせた。
「すいません…」
「ねぇ、木村さんさ?
携帯の電源切ってくれないかな?」
「え?」
「こんな良い店に、連れて来てあげてるんだから、携帯の電源切るのってマナーでしょ?」
連れて来てあげてる…?
確かに素敵なお店だし、前田先生に連れて来て貰ってる。
前田先生が言うように、食事しに来てるのだから、携帯の電源切るのはマナーかも知れない。
でも…
「前田先生は、電源切っていらっしゃるんですか?」
「勿論切ってるよ?
素敵な女性とのデートは、誰にも邪魔されたくないからね?」
デート?
「でも、もし緊急の連絡があったら?」
「そんな事、滅多に無いでしょ?」
その滅多に無い筈の事が、昨日はおこりましたけど…?
「もしかしたら、病院から連絡が入るとは?」
「無いでしょ?
あったとしても、僕には関係ない。
だって当直もいるんだし、そこまで僕が心配する事じゃ無いよね?」
「じゃ、もしお祖母様のお体になにかあったら?」
「んーそれはそれで仕方ない事だし、諦めるしかないんじゃないかな?
寿命だったって事で?」
「・・・・・」
嘘…
この人、本気で言ってるの?
「ほら、冷めないうちに食べよう?」