過去の精算

前田先生に押し切られる様にして、連れてこられたお店は、私にはちょっと敷居の高いお店だった。

「好きな物頼んで?」

「はぁ…・・・」

私は前田先生に差し出されたメニューを受け取った。しかし、

「あっごめん。
メニュー読めないないよね?
僕が適当に頼んで良いかな?」と言って、前田先生はメニューを私から引き取った。

メニューに書かれたフランス語くらいなら分かる。
独学だが、私もフランス語は勉強した。
ただ、値段が値段だけに、頼み辛かっただけだ。
でも、ここは先生にお任せする方が、良いのだろう…

「ええ。先生にお任せします」

結局先生はメニューを指差し、おススメコース料理を頼み、“ これに合うワインを! ” と言ってワインを頼んだ。

この人、本当にフランス語分かるのかな?
まぁ、そんな事どちらでも良いけど…?

料理が運ばれて来た時、私の鞄の中の携帯がバイブした。

「すいません。ちょっとメールが入った様なので、見ても良いですか?」

「うん。良いよ?」

メールの相手は、前谷君だった。
内容はくだらない内容だが、一応返しておかないと後で煩そうだから、適当に返しておいた。
するとまた直ぐに、バイブがメールの受信を知らせた。

「すいません…」

「ねぇ、木村さんさ?
携帯の電源切ってくれないかな?」

「え?」

「こんな良い店に、連れて来てあげてるんだから、携帯の電源切るのってマナーでしょ?」

連れて来てあげてる…?

確かに素敵なお店だし、前田先生に連れて来て貰ってる。
前田先生が言うように、食事しに来てるのだから、携帯の電源切るのはマナーかも知れない。
でも…

「前田先生は、電源切っていらっしゃるんですか?」

「勿論切ってるよ?
素敵な女性とのデートは、誰にも邪魔されたくないからね?」

デート?

「でも、もし緊急の連絡があったら?」

「そんな事、滅多に無いでしょ?」

その滅多に無い筈の事が、昨日はおこりましたけど…?

「もしかしたら、病院から連絡が入るとは?」

「無いでしょ?
あったとしても、僕には関係ない。
だって当直もいるんだし、そこまで僕が心配する事じゃ無いよね?」

「じゃ、もしお祖母様のお体になにかあったら?」

「んーそれはそれで仕方ない事だし、諦めるしかないんじゃないかな?
寿命だったって事で?」

「・・・・・」
嘘…
この人、本気で言ってるの?

「ほら、冷めないうちに食べよう?」




< 56 / 184 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop