過去の精算
狭い町は顔見知りが多い。
ましてや、町に1つしかない病院の窓口に座っていれば、町の人達から自然と声がかかる。
朝から、何度この話をされたことか?
まぁ何も知らないのだから、仕方ないのだが…
「木村さんちょっと良いかな?」
えっ、院長先生?
「はい。なにか?」
「手が空いてからで良いから、院長室まで来てくれるかな?」
「は、はい…」
なんだろう…
私、なにかやらかした?
昨日は急に休んだけど、ちゃんと連絡入れたし?
「院長先生が、ここに来るの珍しいわね?」
隣に座る稲田さんから声がかかる。
「ですね?」
前は良く、ここにも顔を見せていた院長。
ここと言うより、患者さんの顔を見るために、玄関ホールに毎日午前と午後の2回は顔を出し、患者さんに声を掛けていた。
そして私達にも、“ 困った事はないかね?” と声を掛けてくれていた。
でも最近は、あまり顔を出される事はなかった。
「院長も心配してるんじゃない?
噂になってるし?」
「え?」
噂ってなに?
「せっかく、綺麗になったと思ったら、今日は男の子だもんね?」
「院長先生じゃなくても、心配するでしょ?
で、本当は何があったの?」
「何も無いですよ?
短い方が、色々経済的だと思って?」
「確かに経済的かもしれないけど、普通そこまで切らないでしょ?
もしかして、失恋でもしたの?」と、稲田さんは含み笑いを浮かべた。
「・・・・・」
「っな訳ないか?
今時、中学生でも、失恋したくらいで髪切らないもんね?」
「ですよ?」
彼女の何かを含んだ笑いは気になるが、私はそれ以上なにも言わず笑った。