過去の精算

「事務長、院長先生に呼ばれてるので、院長室に行ってきます」

「あー今日は面談の日だったか?
うん。順番に行ってくれる?」

あーそっか…今日は面談の日なんだ?
だからか?

うちの病院は、半年に一度院長による面談がある。
何か困った事はないか、院内で何か改善して欲しい事はないか、院長が直に聞いてくれるのだ。

(トントン)
院長室のドアをノックし、院長の返事を聞いてドアを開ける。

「失礼しますっ!?・・・」

いつもの様に院長先生だけだと思っていたら、そこには前谷君まで居た。
驚く私と同様に、彼も私を見て驚いていた。

「申し訳ないね?
どうしても、同席させろと言うもので?」

「いえ…」

「木村さんは、和臣と同級生だったよね?
和臣が病院に居る事で、何か支障とかあるかな?」

彼と顔を合わせるのは嫌だけど、それを院長に言える訳もなく、言ったところで彼はこの病院の後継なのだから、どうなる訳でもない。
嫌なら、私がここを辞めなくてはいけない。

「いいえ、特になにも…
若先生とは、ほとんど顔を合わせる事も有りませんし、支障が出る様な事はなにも有りません」

「そうか…なら良いんだが、もし何かあったら、私に相談してくれるかな?」

「はい…」

「それから、髪を随分短く切ったようだが?
何かあったのかな?
これはセクハラになるかもしれないけど、女性がそこまで短くするのは、私も見た事が無くて…答えたくなければ、答えなくて良いんだが?」

「いえ、大した理由では無いです。
これから暑くなりますし、この方が色々経済的にも良いかと?」
私は笑って答えた。

「もし、経済的に苦しい様なら…」

「いえ、大丈夫です。
院長先生には、充分お世話になってますから?
これ、いつもの返済分です」

お金を入れた封筒をテーブルの上に置いた。

今まで、黙っていた前谷君は
「おい! 返済分ってなんだ!」
と、声を荒げた。

「お前には関係ない事だ! 黙ってなさい!」

前谷君は、なにも知らされてないんだ?
私が院長にお金を借りてる事…
これも院長先生の優しさなのかな?
勿論、お母さんの入院費を分割にしてもらってる事は彼にもはなした。
だが、私が差し出した袋の厚みに彼は、驚いているのだろう。
入院費を分割にしてもらっても、高額医療費制度を使えば、それほどの金額にはならない。
私が院長に借りているのは、お母さんの入院費だけでは無いのだ。

「木村さん、無理して無いかい?」

「大丈夫です。
ちゃんと食事も出来てますから?」

「なら良いけど…
無理な時は言ってくれて良いからね?」

「はい。
私、これで失礼しても良いですか?」

「ああ、困ってる事が無いなら、次の人とかわって下さい」

私は失礼しますと、院長室を後にした。




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