過去の精算


院長室を出ると、すぐ前谷君は私を追う様に出て来た。

「おい、ちょっと待てよ!」

嫌だ!
あんたの顔なんて見たくない!

「おい!」

「痛い!」

後ろ腕を掴まれ、振り払おうとしたが、上手く振り払えず、彼に抱きしめられてしまった。

「離して!」

「話を聞いてくれるなら離す!」

話?
そんなもの私には無い!
でも、何時迄もこんな所で抱きしめられてるのも困る。
私は首を立てに振り “ 分かった ” と言った。

「5分よ? 5分だけなら聞く」

「ありがとう…」

「なんで髪を切った?」

「若先生には関係ないと思います!」

「前田にフラれたか?」

なに…?
前田にフラれた…?
私が前田先生に…フラれたかって事…?

「フッ…今時、失恋ごときで髪切るなんて…中学生でもしませんよ?」

「じゃなんで?」

「髪が…色も、スタイルも気に入らなかった…
それだけです!」

「気に入らない?
あんなに似合ってたろ!
皆んなにチヤホヤされるくらい?」

「美的感覚は人それぞれ好みも、感じ方も違います。
似合うと言われても、本人が気に入らなければ、意味がない。
ましてや、それを押し付けるものでも無い!
仕事が有りますので、失礼します」

私の返事に納得したのか、呆れたのか、緩んだ彼の腕を払い、私はその場を後に仕事に戻った。

「ねぇー、院長先生何だったの?」

仕事に戻ると、さっそく稲田さんからの質問だ。

「なんでも無いですよ?
いつもの面談でした」

「あー、今日だったのか?
私てっきり、放射線科技師の前田さんとの事かと思った」

「え?」

「だって噂になってるよ?」

稲田さんの話だと、私が前田先生にしつこく言い寄りフラれたと噂が流れてると言う。

「で、今日はそれでしょ?
お昼もあなたの話で、盛り上がってたのよ?」

彼女は悪びれる様子もなく、“ 寝たんでしょ? ” と聞いた。

よく仕事中に、そんな事聞けたものだわ…
ホント呆れる。



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