過去の精算

黙っていると、尚も聞いて来る彼女に、私は苛立ちを覚えた。

「どう返事したら、ご満足頂けますか?」

「なにその言い方?
他人(ひと)の彼氏にちょっかい出して!」

他人(ひと)の彼氏?
澤さんと付き合ってる事知ってるの?

「母親が母親なら、娘も娘よね!」

「それ、どう言う意味ですか?」

「ここで働いてる人、みんな知ってるわよ!
あんたの母親は、他人の旦那を寝とるのが得意だったって!!」

っ!?

「関係持ちすぎて、誰が父親か分からないんでしょ?」

(パッシン!)

母を侮辱され、耐えきれなくなった私は、彼女の頬を叩いていた。

「痛いっ 何するのよ!!」

「母を侮辱するのは許さない!」

「本当の事じゃない!」

「君達辞めないか!?」

再び上げた私の手を、事務長に掴まれ、やっと私は我にかえった。
まだ仕事中で、沢山の患者さん達が私を見ている事に、やっと気がついたのだ。

「・・・・・」

「二人とも、奥へ来なさい!」

その後は、長い時間事務長に叱られた。

「処分は院長と相談する。
暫く、木村さんは謹慎! いいね!!」

事務長に謹慎を言い渡され、そのまま私は帰宅する事となった。

小さな町は、一瞬にして噂は広がる。
私が帰る前には、既に商店街のみんなの耳に届いていた様だ。

「未琴ちゃん、大丈夫かい?」
大丈夫…

「未琴ちゃん、俺達はあんな噂、信じてないから!」
みんな知ってたんだ…

「未琴ちゃん…」

アパートに着くまでの間、どれだけの人から慰めの言葉をもらった事か…
悲しいとか、辛いとか、今の私にはそんな感情はない。
ただ、大好きだった母に…どう言葉をかけていいのか分からない。

いつもなら、母の写真に、“ ただいま ” と声をかけるのだが、今はとても母の写真を見る事が出来ない。




< 65 / 184 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop