過去の精算
「っいってぇ!
バカ何するんだ!」
痛みと驚きで、白衣のポケットから出された彼の右手は、赤く腫れあがっていた。
「何考えてるの!?
この右手は、人を殴る為にあるじゃないでしょ?
命を守る為の大事な手なのよ!?
“ この町の人達を一人でも多く助けれる、父親の様な医者になる ” って約束したじゃない!」
「・・・・・」
「和臣、手を診せなさい」
騒ぎを聞きつけた院長が、心配して部屋へ入って来ていたのだ。
そして、右手を診せろと、彼へ手を差し出した。
だが、前谷君は院長が差し出したその手を弾き叩いた。
(バッシン!)
「前谷君!」
「大した事ない!
あんたのうわべだけの心配なら、要らない!
出ていってくれ!」
うわべだけの心配って…
何言ってるの…?
院長先生は本当に心配してるのに…
そんな事も分から無くなってしまったの?
「うわべだけの心配…か…?
確かにそうかもしれない…
だが、うわべだけの心配だと言われようが、私はこの病院の院長として、お前を心配する。
患者の命に関わるからな?
お前の怪我の状態によっては、今日のオペは中止にする!
院長権限として!」
院長先生が患者さんの事を心配するのは、いつも事だけど…
でも、私の知ってる院長先生と違う気がする。
気のせいだろうか…
「大丈夫だって言ってるだろ!
このくらい大した事無い!
今日のオペだって、何度もやってる簡単なカテーテルだ!」
簡単な…?
巫山戯ないで!
(パッシン!)
「あんたそれでも医者なの!?
医者はどんな時も万全を期すものじゃ無いの!?そんな安易な考えのあんたは、医者失格よ!
医者なんか辞めちゃえ!」
悔しい…
私が医者だったら…
私が外科医だったら…私が執刀するのに…
小さい頃から夢に向かって頑張ってきたのに…
諦めるしかなかった私が、どれだけ悔しかったか…
恵まれてるこの人には、きっと分からない!
「あんたに命預ける患者さんが可愛そう!
手より、頭冷やすと良いわ!」
私はそう言って、買ってきた氷を彼に投げつけた。