過去の精算

前谷君に家まで送って貰うと、彼は、車のトランクから以前私が投げつけた洋服を取り出した。

「どうして…?」

「君のものだからね?
金は俺に返したんだし、もうこれは君のだろ?」

「そうだけど…」

前谷君は、部屋まで運ぶと言って、トランクに入っていた洋服全てを部屋まで運んでくれた。

「あの…良かったらお茶でも…飲んでく?」

「入っても良いのか?」

「うん。良いよ…
もし、お腹すいてるなら、カレーならあるけど?」

「カレー?」

2日ほど前に作り置きして、冷凍していた物がある。

「うん。あっ、あの時のじゃ無いよ?」

彼は、カレーと聞いて、あの時のことを思い出したのか、申し訳なさそうに、頭を下げてくれた。

「もう良いよ…
私も、過剰に反応し過ぎたと思うから?」
ホント、なんであの時あんなにムキになったんだろ…

「で、どうする? 食べる?」

「食べる」

冷凍しておいたカレーを温めて、野菜室に入っていたナスや根野菜を素揚げして、彼に出してあげた。

「げっ! ナス入ってる…」

「子供みたいな事言わないの!」

彼は仕方なく目を瞑り、鼻をつまんで食べていた。
どれだけ嫌いなのよ?

「ねぇ?」

「ん?」

「あの・・・やっぱ良い!」

「なんだよ? 途中で辞められると気になるだろう?」

「あ、うん・・・えっと…お金の事では色々とご迷惑ご心配をおかけしました。
ありがとう…」

「素直でよろしい!」

「なにそれ!
元はと言えば、前谷君が悪いんだからね?
勝手に美容室予約したり、勝手に服買ったりして!」

前谷君は、私の言葉に目を丸くしていた。

「!?」

「え? なに?
私、なんか変な事言った?」

「初めて、名前で呼んだ?」

「え? そ、そうだった?
ごめん…やっぱり先生って呼んだ方が良いよね?
今度から気をつけるね?」

「いや、名前で良い」

久しぶりに呼んだ、彼の名前。
彼が名前で良いと言うから、心の中で何回も、彼の名前を呼んでいた。




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