おじさんは予防線にはなりません
ゆっくりと大河の顔が近づいてきて唇が……重なった。

「……!」

無理矢理唇をこじ開けられ、舌をねじ込まれる。
反射的にその舌を噛んだ。

「いっ!」

離れた大河が恨みがましく睨んでくる。
けれど私は口紅が落ちるなんてかまわずに、何度も唇をごしごしとこすった。

「私はっ、池松さんが好き、だからっ。
片想いでかまわない。
だから、大河を好きになれないっ」

目からは勝手にぼろぼろと涙がこぼれ落ちる。
大河はただ、なにも言わずに突っ立っていた。

「だから、ごめん!」

左手薬指の指環を抜き、大河へ差し出す。
受け取ろうとしない彼の手に無理矢理それを握らせた。

「本当に、ごめん!」

後ろも振り返らずに、その場を逃げだす。
< 238 / 310 >

この作品をシェア

pagetop