おじさんは予防線にはなりません
ここにはじめてきた日も同じだった。
不安で不安でしょうがない私に、声をかけてくれたのは、池松さんだった。
あれからいろいろあったけれど、今日で全部おしまい。

「羽坂」

荷物ともらった花束を抱えてエレベーターを待っていたら、池松さんが並んで横に立つ。

「今日、これから予定はあるのか」

「ない、ですけど……」

「なら、送別会をしないか。
……ふたりで」

池松さんはエレベーターの扉を見つめたまま、私の方を見ない。
これはいったい、どういうことなんだろう。

「どうだ?」

「そう、ですね。
……なら」

きっと、もう二度とこの人に会うことはない。
だったら最後にもう少しだけ、想い出を作らせてもらってもいいよね?
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