おじさんは予防線にはなりません
「そう、だな。
……離婚届は出したし」

目を伏せて私から視線を逸らし、池松さんは肉をひっくり返した。

「私は、池松さんを諦めなくていいんですか……?」

「そう、だな」

池松さんはじっと、焼ける肉を見つめている。
私もじっと、それを見つめた。

「俺は……」

そこで言葉は途切れ、池松さんはそれっきり黙ってしまった。
また、ジュージューと肉の焼ける音だけがふたりの間に響く。
ただ、さっきと違うのは、今度は肉が焦げないように池松さんはこまめにひっくり返していた。

「……たぶんだいぶ前から、羽坂が好きなんだと思う」

「え?」

「ほら焼けたぞ、食え!」

私に聞き返されないようにか、焼けたお肉をお皿に入れてくる。
気になりながらも、それを口に運んだ。
< 278 / 310 >

この作品をシェア

pagetop