おじさんは予防線にはなりません
「羽坂です。
よろしくお願いします……」

不審に思いながらも挨拶してあたまを下げると、かさりと紙が動く音がした。

「……ああ、……聞いてますよ、……羽坂さん。
……羽坂さんですね」

壁の向こうからかろうじて聞き取れる声がする。
失礼ながら上からのぞき込んでみたら、小柄なおじさんが書類に判を押していた。

「……今日からしばらくは……僕が仕事を……教えます。
……よろしく……お願いします」

よわよわと笑う本多課長は太陽の下に出たら消えてしまうんじゃないかっていうくらい、影が薄かった。

「……朝礼の……時間まで……」

本多課長がすべてを言い終わらないうちに、始業のチャイムが鳴りはじめる。

「……朝礼で……紹介しますね」

はぁーっ、聞いているこっちが陰気なりそうなため息をついて、本多課長は席を立った。
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