この溺愛にはワケがある!?
だが、重要なところだとわかってもそれを知る手段はもう行政と小夏に聞くしかない。
行政は肝心なところを言わないし、小夏には話どころか会えもしない。
藤堂ならもしかして、と隆政に尋ねたが答えは芳しくなかった。

「無理だ。爺さんが喋らないことを藤堂は絶対に漏らしたりしない。例え全てを知っていたとしてもな」

(めんどくさいっ!行政さんも藤堂さんもイケオジ……いえ、イケジジだけど頑固だわ!隆政さんの方がまだ扱いやすいわよ)

とチラリと隆政を見て美織は微笑んだ。
行政の方が好みのタイプだったが、今となっては隆政の方が断然いい。
深く知ってみれば性格は素直だし、声と顔はいいし、家事もゴミ出しも率先して手伝う。
質素なものを食べさせても怒らないし、それどころか蝶よ花よ天才よと絶賛する。

(何これ、今まで気づかなかったけどスパダリじゃない!?)

「その百面相はまだ続くのか?可愛いから見ていたいが、それどころじゃないと思うぞ」

いつの間にか、またおかしな顔をしていた美織を、微笑みながら隆政(スパダリ)が見ている。

「そっ、そっ、そうね!そうだわね!」

「…………顔が赤い。熱か?大変だ、早く寝た方が……」

慌てた隆政は美織の額に手を当てる。

「いやいやいやいや、違うから。ご心配なく……」

どうして赤くなったか美織はわかっている。
熱なんかじゃない。
今何故かこんな時に、隆政への気持ちをしっかりと自覚してしまったのである。
焼き鳥屋で彼の気持ちを聞いた時、思ったよりも誠実な男だと知った。
その時は『まぁいいか』くらいの気持ちで付き合ってみることにしたのだ。
恋心も……まだ小さかった。
そうこうするうちに、流れに流され伴侶宣言、プロポーズ、なんだか結婚することになっている。
所帯染みた同棲生活にときめきも何もあったもんじゃない、と思ったがどうやらそれを改める時が来たらしい。

「残念なことに、私、隆政さんのこと凄く好きみたい」

「……………え?」

「………………もう言わない」

ますます赤くなる美織の額から手を滑らせて、隆政はその頬を両手で覆う。

「なんか俺の喜びそうなことを言ったろ??いや、気になる言葉もあったが……まぁ、とにかく……心に刻むからもう一度言って!!」

顔を固定したまま、ぐいぐい迫ってくる隆政をかわすことも出来ず、仕方なく美織はリピートした。

「残念なことに………」

「そこじゃなくて!!それは省いて!!」

「………凄く好き」

目を逸らしたいのにそらせない。
美織の頭からは湯気が出ていたかもしれないが、だらしなく笑う隆政はそんなこと気にしないようだ。

「やっと聞けた。やっと言われた。みおがついに言ったぞー!うぉ……うぐっ」

「夜遅いから!近所迷惑だから!」

古い家屋は音漏れが酷い。
美織は手で急いで隆政の口を塞いだ。
台所で美織の頬を覆う隆政と、隆政の口を塞ぐ美織。

(ヤバい、この流れはきっと……)

と思ったのも束の間、強い力で引き寄せられて……。
盛り上がった雰囲気を止めるものなど何もない。
二人は立ち塞がった難題をとりあえずは棚に上げることを選んだ。
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