この溺愛にはワケがある!?
一月二十日

今日、行政さんにお別れを言ってきました。
突然のことで随分驚かれたと思います。
何度も何度も、嫌だと考え直してくれと言って下さいました。
が、私の断固とした思いを最後は理解してくれたと思います。

一ヶ月間、考えに考え、悩みに悩み、もう一生分頭を使った気がします。
彼にとって、黒田造船というのはやはり彼そのものなのです。
最初出会ったとき、男達と乱闘になっていたのは、他の会社の顧客を奪おうとしたからだと後から聞きました。
そんなことをしてまで、行政さんが守りたかったものをここで潰すわけにはいきません。

小夏さんと一緒になれば、全てがうまく行くのです。
適材適所という言葉がありますが、まさにその通り。
彼の隣には小夏さんが相応しい。
彼女は、私の大切な親友は、彼と一緒に戦える人です。

最後に一つ、わがままを聞いて頂きました。
私達のことを誰にも言わない、と。
特に小夏さんには知られたくない。
彼女の悲しむ顔なんて見たくないのです。


三月二十日

今日は学校の桜がとても美しく咲いています。
今日を境に、私はここを離れ大学へと進学します。
これで良かった。
今はとてもそう思えるのです。

小夏さんは卒業と同時に黒田行政さんと御結婚なさるそうです。
あんなに親しくした小夏さんと、私は少し距離を置きました。
何故なら、結婚式に招待されるのが怖かったからです。
私もそこまで図太くは出来ていませんし、小夏さんに変に勘繰られても困ります。

私がもう少し器用なら、恋人も親友も同時に失うことはなかったかもしれません。
だけど、人生は長い。
またこれから出会う人も必ずいるし、きっと誰かをまた好きになるはずだから』

「なるほどな……」

隆政の声に、美織は我に返った。
今まで美織は、七重になったような気持ちで日記を読んでいた。
この日記を書いた時、きっとドン底のような思いだった筈だ。

「まだ、続きがあるぞ」

隆政はページを捲る。
そこには、大学時代の出来事が短い文章で書き綴られていた。
ざっと見るに、彼氏らしき記述はない。

「やっぱり、おばあちゃん、行政さんのこと忘れられなかったんだ」

そう思うと辛くて堪らなくなった。
七重は何も悪くない。
というか、被害者に近い。
皆の為を思って我慢しただけなのに、七重だけが不幸なんて!
と、思った時だった。

「みお、ここから……これ、おじいさんのことじゃないか?」

隆政の指した箇所、そこには美織の知る新しい登場人物がいた。
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