わたしと先生。
この声、吉沢先生……!

「し、しつれいします。」

扉を開けると、窓際の席に座っている吉沢先生がいた。

「小鳥遊さん、ありがとうございます。そこら辺に置いておいてください。」

「は、はい。」

言われた通り、入ったすぐの机に荷物を置く。

生物準備室を見渡すと、おなじみの人体模型があったり。
棚には薬品?とにかくいろんな薬があって。
やっぱり独特のにおいがした。

「ここって先生しか使ってないんですか?」

机がひとつしかないことに疑問を覚えたから、思わず先生に聞いてしまう。
すると、先生は作業中の手を止めて、くるくる回る椅子ごとこちらを向いた。

「そうですね。なにせ場所が辺鄙ですから僕以外は使っていません。」

「そう、なんですか。」

ここに来たら先生に会える……。
なんてことを考えてしまい、頭を振る。

そ、そうだ。

「あの、先生。」

「なんですか?」

「えっとその……。」

覚えてないかもだけど。
そんなことありましたっけ?とか言いそうだけど。

でもずっと、言いたかったこと。

「あの日は、ありがとうございました。」

やっぱり少し照れくさくて、あの日はなんて濁して言ってしまった。
これなら伝わらなくても、伝え方が悪かったからなんて言い訳できちゃうし。
我ながら、ずるいやり方……。

ぺこり、頭を下げていると。
椅子を下げて立ち上がる音が聞こえた。

先生の靴の音が聞こえる。
そして、私の近くまで歩いてくるのが気配でわかる。

どっどっどっ、なぜか心臓の音が大きくなる。
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