わたしと先生。
桜が舞い落ちる視界の奥。
風に吹かれて揺れる天パの黒髪。
閉じた片目、右目には泣きぼくろ。
あの日は紺色だったけど、今日は薄いピンク色のセーター。

間違いない。あの日の先生だ。

「あ、あの!」

「新入生ですよね?」

「えっ。……は、はい。」

「生徒用の玄関はあっちですよ。それに、もうじき入学式が始まるので移動してくださいね。」

さっきの校門の方を指さしながら、先生は私に笑いかける。

「……はい。」

「じゃあ。」

そう言って、先生は職員用玄関の方に行ってしまった。

私はしばらく動くことができず、立ち尽くしていた。

……もしかして、先生は覚えてない?
あの日のこと、覚えてるの私だけ……?

心がきりりと痛む。

た、確かに先生にとっちゃ毎年あるようなことで。
珍しくともなんともないよね。
それに、もう1ヶ月も前のことだし。
うん、仕方ない。仕方ない!

「名前、聞けなかったなあ。」

ひとつ、ため息をついて私は校門の方へと足を運んだ。


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