はちみつの景色
「はい、号令~」
先生の号令とともに5時間目が始まった。
「プリント配るぞー」
前から回ってきたプリントが花山くんから私の手に渡る。
「中川さん」
「へ?」
プリント、
と、四つに折られたノートの切れ端だった。
「何これ…」
そう言いかけたけど、花山くんは前を向いてしまった。
ええ…何よ。
ノートの切れ端を開いてみた。
花山くんの字…綺麗。
男の子とは思えないような丁寧な字で書いてあったのは
「え…」
今日、もう一回じいちゃんの店来てくれない?
俺、バイトだから。
やっぱりバイトだったんだ、とか。
なんで手紙、とか。
花山くん私になんの用事?とか。
気になることはいっぱいあるんだけど…
花山くんの背中を見つめながら、一瞬でいろんなことが駆け巡る。そもそもこれ、どうやって返事するの?
結局、何も返事することができなかった。というか、タイミングがなく…
いや、話しかける勇気がなかったのか?
いざ、花山くんに声をかけるタイミングになると、誰かが先に話かけたり、夏子が来たりと「ねえ」ってたった2文字がなかなか言えず。
相手があの花山千景だからなのか、恐るべし花山千景。
心の中で言い訳かましつつ、今の時刻4時。