流転王女と放浪皇子 聖女エミリアの物語
 支度を整えて施薬院を出ると近衛兵が整列して四頭立ての四輪馬車が待ちかまえていた。

 タンテラスが扉を開ける。

「早く乗ってください」

 馬車の中には座席にも床にもクッションが並べられていた。

 まるで遠距離旅行用の設備のようだ。

「これはいったい……」

 いぶかるエミリアにタンテラスが胸を張る。

「外出禁止はシューラー閣下の御指示ですが、閣下は現在敵の手の内にあるため御裁決をいただくことができません。その代わりといたしまして、我々近衛騎士団はエリッヒ殿下の指揮下にありますゆえ、姫様を殿下のもとへ連行いたします」

 咳払いをすると隊長は大きな声で部下を呼びつけた。

「おい、キューリフ!」

「はっ!」

「おまえを罪人護送の責任者としてナポレモへ派遣する。責任を持って殿下のもとへお届けするのだ。よいな!」

「はい。命に替えても必ずナポレモへお連れいたします」

「それと、その女官だが……」

 タンテラスが馬車の脇に控えていたマーシャを顎で指す。

「主人であるエミリア様の御意志に反する行動を取った不届き者である。よって、フラウムから追放処分とする。キューリフ、都を出るまでしっかりと見届けるのだ」

「はい、かしこまりました」

「都を出た後であれば、その者がどこへ行こうと預かり知らぬこと。おまえの責任で処分せよ」

「はい、そのようにいたします」

 施薬院から出てきたジュリエが馬車の中をのぞき込む。

「姫様、あとはこのわたくしにお任せになって、行ってらっしゃいな」

「はい。ありがとうございます」

 エミリアの頬をジュリエが指でなでる。

「泣かないの。泣くのは彼に会ってからにしなさい」

 近衛騎士団が角笛を高らかに吹き鳴らす。

 街中の人が家の窓から顔を出す。

「まったく、朝っぱらから何事だ?」

 フラウムの人々に聖女の旅立ちが知れわたったころ、エミリアを乗せた馬車は一路ナポレモへ向かって街道を疾走していた。

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