流転王女と放浪皇子 聖女エミリアの物語
「僧正殿、もうすぐだ。しっかりしろ」
エリッヒの耳元で老人が何かつぶやいている。
「フ、フランセル……」
懐かしい名前だ。
エリッヒは立ち止まって背中から老人を下ろした。
「殿下、なにをなさっているのです。早く!」
シュライファーが石段の途中で大きく腕を振って叫んでいる。
エリッヒは一瞬手のひらを向けて待つように合図をしてから、老人の体をそっと回廊に横たえた。
「フランセル」
顎を振るわせながら老人が懐かしい名前を呼んでいる。
「どうした! フランセルがどうした?」
返事はない。
フランセル、ここにいるのか。
赦せというのか。
光を見せてやれというのか。
なら、フランセル、おまえこそが見せてやってくれ。
エリッヒは老人のために祈った。
いるんだろ、フランセル。
いるのなら老人に光を見せてやってくれ。
慈愛に満ちた神の恩寵を。
罪深きこの男を救ってやってくれ。
俺はまだおまえの笑顔を覚えているぞ。
この老人もまたおまえの笑顔を求めているじゃないか。
「おお、フランセル……」
孫娘の名をつぶやく老人の顔には安らかな笑みが浮かんでいた。
だがそれは硬直した顔面に現れた苦痛が作り出す痙攣に過ぎないのかもしれなかった。
それが半世紀にもわたって皇帝を補佐し、帝国の中枢に君臨した老人の最期だった。
エリッヒは老人の腕を胸の上で交差させてやった。
「危ない!」
シュライファーの叫びに思わず身をかがめると、頭上を矢が飛び越えていった。
何者かが駆け寄ってくる。
低い姿勢のまま剣を抜き相手に突き立て防戦する。
「久しぶりだな、若造」
見上げても逆光で顔が見えない。
立ち上がって相手と向き合ってようやく思い出した。
旅の途中で襲撃して来た二人組の生き残りだ。
エリッヒの耳元で老人が何かつぶやいている。
「フ、フランセル……」
懐かしい名前だ。
エリッヒは立ち止まって背中から老人を下ろした。
「殿下、なにをなさっているのです。早く!」
シュライファーが石段の途中で大きく腕を振って叫んでいる。
エリッヒは一瞬手のひらを向けて待つように合図をしてから、老人の体をそっと回廊に横たえた。
「フランセル」
顎を振るわせながら老人が懐かしい名前を呼んでいる。
「どうした! フランセルがどうした?」
返事はない。
フランセル、ここにいるのか。
赦せというのか。
光を見せてやれというのか。
なら、フランセル、おまえこそが見せてやってくれ。
エリッヒは老人のために祈った。
いるんだろ、フランセル。
いるのなら老人に光を見せてやってくれ。
慈愛に満ちた神の恩寵を。
罪深きこの男を救ってやってくれ。
俺はまだおまえの笑顔を覚えているぞ。
この老人もまたおまえの笑顔を求めているじゃないか。
「おお、フランセル……」
孫娘の名をつぶやく老人の顔には安らかな笑みが浮かんでいた。
だがそれは硬直した顔面に現れた苦痛が作り出す痙攣に過ぎないのかもしれなかった。
それが半世紀にもわたって皇帝を補佐し、帝国の中枢に君臨した老人の最期だった。
エリッヒは老人の腕を胸の上で交差させてやった。
「危ない!」
シュライファーの叫びに思わず身をかがめると、頭上を矢が飛び越えていった。
何者かが駆け寄ってくる。
低い姿勢のまま剣を抜き相手に突き立て防戦する。
「久しぶりだな、若造」
見上げても逆光で顔が見えない。
立ち上がって相手と向き合ってようやく思い出した。
旅の途中で襲撃して来た二人組の生き残りだ。