流転王女と放浪皇子 聖女エミリアの物語
熊のぬいぐるみですって……。
違う。
いつもと感触が違っていた。
シュライファーの言う通り私は子供だ。
毎晩熊のぬいぐるみに口づけをしているような恋を知ることのなかった子供だ。
でも、だからこそ分かる。
確かに感触が違っていた。
私が口づけをしたのは熊のぬいぐるみなどではなかったはずだ。
王女は駆けだした。
扉を開けて塔内の石段を駆け下りる。
「シュライファー!」
壁に反響するばかりで返事がない。
「シュライファー、お待ちなさい!」
石段を下りたところは大広間に隣接した控えの間になっている。
用人や女官達が慌ただしく行き来している中を王女は執事の姿を探した。
誰かがぶつかる。
テーブルクロスを運んでいる用人だった。
目が合うと、相手は青ざめた顔であわてて土下座した。
「こ、これは、王女様、大変失礼いたしました」
「かまいません。面を上げなさい。執事はどこですか」
「存じません。こちらにはいらっしゃらないかと」
そうですか、と言い残してエミリアは部屋に戻った。
床に落ちているナイトを拾い上げてチェス盤の上に戻す。
ふと気がつくと、セイウチの牙でできた白い駒が欠けている。
ナイトの脚がなくなっていた。
兄上達の大事な思い出の品を台無しにしてしまった。
あわてて探すと、床の上に破片が落ちていた。
王女は癇癪を起こして乱暴なことをした自分を恥じた。
自分は未熟な人間なのか。
エミリアは顔を覆って泣いた。
確かに私は子供だ。
私はまだ恋を知らない。
なんでも教えてくれた男は一番大切なそれを私には教えてはくれないのだ。
ならば、私は一生子供のままでいい。
恋なんていらない。
熊のぬいぐるみを抱きしめていればいいのだ。
必要なのが世継ぎなら、目を閉じて、ただ運命が私の心を刺し貫くままにしておけばよいのだろう。
そこに愛など、なくても良いのだ。
それがあの男の教えであるのなら。
違う。
いつもと感触が違っていた。
シュライファーの言う通り私は子供だ。
毎晩熊のぬいぐるみに口づけをしているような恋を知ることのなかった子供だ。
でも、だからこそ分かる。
確かに感触が違っていた。
私が口づけをしたのは熊のぬいぐるみなどではなかったはずだ。
王女は駆けだした。
扉を開けて塔内の石段を駆け下りる。
「シュライファー!」
壁に反響するばかりで返事がない。
「シュライファー、お待ちなさい!」
石段を下りたところは大広間に隣接した控えの間になっている。
用人や女官達が慌ただしく行き来している中を王女は執事の姿を探した。
誰かがぶつかる。
テーブルクロスを運んでいる用人だった。
目が合うと、相手は青ざめた顔であわてて土下座した。
「こ、これは、王女様、大変失礼いたしました」
「かまいません。面を上げなさい。執事はどこですか」
「存じません。こちらにはいらっしゃらないかと」
そうですか、と言い残してエミリアは部屋に戻った。
床に落ちているナイトを拾い上げてチェス盤の上に戻す。
ふと気がつくと、セイウチの牙でできた白い駒が欠けている。
ナイトの脚がなくなっていた。
兄上達の大事な思い出の品を台無しにしてしまった。
あわてて探すと、床の上に破片が落ちていた。
王女は癇癪を起こして乱暴なことをした自分を恥じた。
自分は未熟な人間なのか。
エミリアは顔を覆って泣いた。
確かに私は子供だ。
私はまだ恋を知らない。
なんでも教えてくれた男は一番大切なそれを私には教えてはくれないのだ。
ならば、私は一生子供のままでいい。
恋なんていらない。
熊のぬいぐるみを抱きしめていればいいのだ。
必要なのが世継ぎなら、目を閉じて、ただ運命が私の心を刺し貫くままにしておけばよいのだろう。
そこに愛など、なくても良いのだ。
それがあの男の教えであるのなら。