流転王女と放浪皇子 聖女エミリアの物語
犬は背中を曲げて頭を低くしながらまだグルルルとうなっている。
エリッヒは脚も大きく開き、ボトルを持った腕をぶんぶん振り回しながら犬以上の大声でバウッガウッと吠えて威嚇している。
後ろから見ていると、必死な姿が滑稽に見える。
まるで道化師のようだ。
思わず吹き出して笑ってしまった。
「おいおい、なんだよ」
エリッヒは犬と対峙したまま背後のエミリアに文句を言った。
「すみません。でも、おかしくて」
「馬鹿野郎。犬に食われちまえ」
「すみません」
エリッヒが犬に向かって一歩踏み込む。
犬は脚を動かさずに胴体だけ後ろにずらしてウォンッと吠えた。
次の瞬間、エリッヒがさらに一歩踏み込んでボトルで犬に殴りかかるふりをした。
犬は後ろを向いて悲鳴のような甲高い鳴き声をあげて走り去った。
エミリアは荒い息をしている男の背中に駆け寄った。
「追い払ったぜ」
「あ、ありがとうございます」
まだ膝が震えていてエミリアは男の背中にもたれかかった。
エリッヒがよろける。
「おいおい、俺だって震えてんだよ」
「臆病者」
「あんたに言われたくはないさ」
エリッヒが振り向きながらエミリアを抱きしめた。
お互いに息が荒い。
「怪我はないか」
「はい」
「それは何よりだ」
エリッヒの手から割れたワインボトルが落ちた。
砕け散って、乾いた音が暗い路地に消えていく。
「さあ、宿に戻ろう」
エリッヒがエミリアの肩を抱いて歩こうとした。
エミリアは体を振って抵抗した。
「嫌です。帰りません」
「何を言ってるんだ。また襲われるぞ」
「でも嫌です。帰りません」
「わがままを言うな。何度も助けてやれるわけじゃないんだぞ」
「結構です」
背を向けたエミリアの肩をつかんでエリッヒが無理矢理振り向かせた。
「良くねえよ!」
いきなり男が怒鳴った。
「いいわけないだろ。あんたを放っておけるわけないだろ!」
男の剣幕に身震いしながらも、エミリアも言い返した。
「なにゆえですか。わたくしなどどうでもいい女でしょうに」
「そんなことあるかよ」
「だから、なにゆえですか」
男は一瞬言葉に詰まって顔を背けた。
「それは、任務だからだ。あんたをフラウムに送り届けるのが俺の使命だからだ」
エリッヒは脚も大きく開き、ボトルを持った腕をぶんぶん振り回しながら犬以上の大声でバウッガウッと吠えて威嚇している。
後ろから見ていると、必死な姿が滑稽に見える。
まるで道化師のようだ。
思わず吹き出して笑ってしまった。
「おいおい、なんだよ」
エリッヒは犬と対峙したまま背後のエミリアに文句を言った。
「すみません。でも、おかしくて」
「馬鹿野郎。犬に食われちまえ」
「すみません」
エリッヒが犬に向かって一歩踏み込む。
犬は脚を動かさずに胴体だけ後ろにずらしてウォンッと吠えた。
次の瞬間、エリッヒがさらに一歩踏み込んでボトルで犬に殴りかかるふりをした。
犬は後ろを向いて悲鳴のような甲高い鳴き声をあげて走り去った。
エミリアは荒い息をしている男の背中に駆け寄った。
「追い払ったぜ」
「あ、ありがとうございます」
まだ膝が震えていてエミリアは男の背中にもたれかかった。
エリッヒがよろける。
「おいおい、俺だって震えてんだよ」
「臆病者」
「あんたに言われたくはないさ」
エリッヒが振り向きながらエミリアを抱きしめた。
お互いに息が荒い。
「怪我はないか」
「はい」
「それは何よりだ」
エリッヒの手から割れたワインボトルが落ちた。
砕け散って、乾いた音が暗い路地に消えていく。
「さあ、宿に戻ろう」
エリッヒがエミリアの肩を抱いて歩こうとした。
エミリアは体を振って抵抗した。
「嫌です。帰りません」
「何を言ってるんだ。また襲われるぞ」
「でも嫌です。帰りません」
「わがままを言うな。何度も助けてやれるわけじゃないんだぞ」
「結構です」
背を向けたエミリアの肩をつかんでエリッヒが無理矢理振り向かせた。
「良くねえよ!」
いきなり男が怒鳴った。
「いいわけないだろ。あんたを放っておけるわけないだろ!」
男の剣幕に身震いしながらも、エミリアも言い返した。
「なにゆえですか。わたくしなどどうでもいい女でしょうに」
「そんなことあるかよ」
「だから、なにゆえですか」
男は一瞬言葉に詰まって顔を背けた。
「それは、任務だからだ。あんたをフラウムに送り届けるのが俺の使命だからだ」