流転王女と放浪皇子 聖女エミリアの物語
「私は彼付きの女官だったのよ」

 真相はあっさりしたものだった。

「王女様にシュライファー殿がいたように、エリッヒのお世話をしたのが私。私が二十歳の時にあの子が十歳で、その時からのおつきあいね。まあ、姉代わりみたいなものね。あの子はあたしのことをおばさんって呼ぶけど、照れてるのよ」

 ジュリエが微笑む。

「彼の母親は事情があってエリッヒとは離れて暮らしていたの。だから身の回りのお世話をしたのが私。彼にはいろいろなことを教えました」

「そうだったのですか」

「私は旅回りの一座に拾われて育てられたから、旅の楽しさとかつらさ、各地の政治情勢とか、彼の知らないことをたくさん知っていたのよ。夜、枕元でそういうお話をすると、それはもう、彼は夢中だったのよ。彼もあなたと同じように貴族のお坊ちゃんだったから、お城から外に出たことはなかったのね」

 エリッヒの昔の話を知って少しだけ気持ちが落ち着いてきた。

「それと、夜の社交術のコツなんかも教えたんですけどね。殿方も気の利いた会話の一つもできないと社交はできませんものね」

 ジュリエがエミリアの頬を包み込んで涙をぬぐう。

「でも、教えたことがまったく役に立っていないようですわね。こんなにかわいい女性を泣かせるなんて。愚かな男。落第生」

 二人は焚き火のそばに寄って、置いてあるベンチに並んで腰掛けた。

 ジュリエがエミリアの膝に手を置いて話を続けた。

「不器用なのよ、彼も」

「不器用?」

 ジュリエが目尻を下げながらうなずく。

 エミリアはうつむきながらつぶやいた。

「わたくし、誤解していたようですわね。あまりにも親密そうだったので」

「男女が話をするときに親密じゃないとかえって怪しまれるでしょう。私が彼にそう教えたんですわ」

「じゃあ、わたくしと一緒にいるときの親切そうな態度もそういう演技だったのですね」

「また、そうやって裏を勘ぐろうとする。王女様の良さは、裏表のないまっすぐなところじゃありませんか」

「エリッヒもそう言っていました」

「でしょう。彼、人を見る目はあるんですから」

 エミリアは黙ったまま穏やかな焚き火の炎を見つめていた。

 ジュリエが頬を寄せてささやく。

「彼はあなたのそばにいる理由を言わなかったの?」

「ただの任務だと」

 男のその言葉を思い出すといらだってしまう。

 エミリアは顔を背けた。

 嫉妬だけが理由ではないのだ。

 誤解が解けたところで、エリッヒのことなどもうどうでもいいのだ。

 お互い、仕方なく同行しているだけの関係なのだから。

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