流転王女と放浪皇子 聖女エミリアの物語
 エリッヒが胸に下げた金貨を取り出した。

「十五で初めて城を出た時に、これをくれたのがジュリエだ」

「まあ、そうなのですか」

「俺はあのおばさんのおかげで死なずにすんでるようなものだ」

「わたくし何も知らなくて」

「ジュリエはあちこちの社交界を渡り歩いているからなんでも知っているし、俺以上に旅慣れている。だから、仕事を手伝ってもらっているんだ」

 エミリアはエリッヒの鼻を人差し指でつついた。

「でも、まるで密会のようでしたけど」

「男と女が怪しまれずにいるには、そうするのが一番だって、あのおばさんの教えだからな」

「でも、誤解を与えるじゃありませんか」

「まさかあんたが誤解するとは思わなかっただけだ」

 エリッヒが軽く流そうとするのを、エミリアはとがめた。

「それでは、わたくしのほうが悪いみたいではありませんか」

「悪いとかそういうことではなくて、誤解して、嫌われるとは思わなかっただけだ」

「あんな場面は見たくありませんもの」

 エリッヒが腕に力を込めて女を見つめた。

「なぜ?」

 エミリアはまっすぐ見つめ返した。

「秘密です」

「なんだ、それは」

「ジュリエさんが言っていました。あなたには言えないことがあると。だからわたくしも秘密にします」

「秘密? そんなものないぞ」

「ごまかすのですか」

「そういうわけじゃない。言っただろ。俺は嘘はつかないって。最初から今まで、ずっとそうだ。あんたが俺の言葉を信じてないだけだ」

「ずるい人。わたくしのせいですか」

 エリッヒが微笑みかける。

「けんかをするために戻ってきたのか」

 エミリアは男の胸に額を押しつけて顔を隠した。

 二人はしばらく黙ったまま抱き合っていた。

< 55 / 151 >

この作品をシェア

pagetop