流転王女と放浪皇子 聖女エミリアの物語
 衝立の陰には着替えを終えたエミリアがいた。

「似合うぞ」

「嘘ばっかり」

 柔和な女の笑顔に向かって男が顔を寄せてささやいた。

「男の嘘には本当のことが詰まっている」

 エミリアは明るいところに出て、くるりと回った。

「男装としてはどうでしょうか」

 筒型の上着なので元々ゆったりとした形のせいか胸が目立たない。

 男装としても完璧だ。

 それを指摘すると、急にエミリアが不機嫌になった。

「もともと大きくありませんから」

 エリッヒを置いたまま店を出て歩き出す。

 男はあわてて馬を引いて追いついた。

「おい、待てよ」

 エミリアは無言で歩き続ける。

「待てって」

「待ちません。急ぐのでしょう。はやくしなさい」

「だから、そっちは逆方向だ」

 エミリアが立ち止まる。

「それを早く言いなさい」

 くるりと振り向いて戻ると、にやけ顔のエリッヒがすれ違いざまに言った。

「似合うぞ」

 エミリアは立ち止まって男をにらみつけた。

 次の瞬間、馬の鐙に脚をかけたかと思うと、颯爽と脚を広げてまたがった。

「じゃあ、行くぞ、エリッヒ」

 男言葉で馬上から見おろす男装の王女を見上げながらエリッヒは鼻の頭をかいていた。

「道も知らないくせに、生意気言うな」

「何か言ったか?」

「へいへい、参りますよ。隊長殿」

 綱を引くと、馬がご機嫌にいなないて向きを変えた。

 男装の王女は満足そうな表情で馬上からの景色を楽しんでいた。

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