熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
「あら? あの蝶……」
その時、見覚えのある黒い蝶を見つけて、私は思わずその蝶が舞う草原に入っていった。
すると、私に気が付いたかのようにふわふわと蝶が近づいてきて、まるで歓迎してくれているかのように、私の周囲を飛びまわる。
可愛い……あの時の子と一緒だわ。
私はその蝶を、いつかアトリエに迷い込んだ蝶と重ね合わせ、懐かしい思い出に浸る。
無意識に手を伸ばすと、蝶はよく訓練された手乗りの鳥のように、私の指先に止まって羽を休めた。
「なんていう蝶なんだ?」
後から追いかけてきた梗一に聞かれ、私は微笑みながら教えてあげた。
「ジャコウアゲハ。あなたがよくつけている香水と似た香りがするのよ」
あれからまた調べたら、香りがするのは雄だけで、しかも捕まえて近くで嗅がないとわからないほどわずかにしか匂わないらしい。
でも、梗一と別れる決断をして、無意識に彼の香りを恋しがっていたあの時の私は、そのわずかな香りを確かに感じて、涙を流さずにはいられなかった。
そんな、少しほろ苦い、けれど大切な思い出の蝶。
「もしかして、あの絵の黒い蝶も……?」
梗一も思い当たることがあったらしく、記憶をたどるように宙を見ながら呟く。
彼の頭に浮かんでいるのはきっと、私たちを再び引き合わせるきっかけになってくれた、思い出深いあの絵だろう。