熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
そう思った瞬間、梗一と初めて体を重ねた記憶が断片的に脳裏をよぎり、私はそれを振り払うようにぶんぶん首を振る。
「さっさと片付けよう……」
そうひとりごちて、頭上に渡してある紐から干したシーツを回収しようとした瞬間――。
ふたつ折りになっていたシーツの隙間から、ふわりと一頭の蝶が舞い上がった。
「あら……? こんなところにどうして」
蝶は、黒く透ける羽でゆるやかに部屋の中を羽ばたいては、時折スイーッと私のもとへ戻ってきて、くるくると舞った。
蝶にそんな習性はなかったと思うけれど、まるで私という人間になついているみたい。
「可愛い子ね、あなたを描いてあげようか」
私はシーツを片付けるのを一旦やめ、雑然とした作業場からスケッチブックを手に取った。
すると、蝶の方も「描いて」と望んでいるかのようにシーツの端に止まり、じっと羽を休める。
「いい子ね」
そう呟き、私が鉛筆を走らせたのとほぼ同時に、蝶はまた気まぐれに飛び立ち、今度は窓の方へとふわふわ向かった。その姿は、外に出たいと訴えているようにも見えた。
「……残念。でも、ずっとここに閉じ込められていたんだものね。わかったわかった、今窓を開けるから」