お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。
アレンと共に広間の扉を開けると、ウッドチェアに腰掛けたお母様が、やけに深刻そうな表情で1人の青年と話しているのが見えた。
彼はルコット。サーシャ専属の執事だ。
やはり、サーシャが家に帰ってきていることは間違いないらしい。
そして、子犬のように純粋でちょっぴりヘタレなことで有名なルコットが今にも泣き出しそうな顔をしていることから察するに、ヤバい事態なのだろう。
「お母様、一体何があったの…?」
「あぁ、ニナ…」
お母様も、お説教が頭からすっかり飛んでしまっているようだ。
内心ドキドキしながら言葉の続きを待っていると、母は、ぽつり、と信じられないことを口にする。
「実は、帰ってきたサーシャが、挨拶もせずに部屋にこもったっきり出てきてくれないのよ。」
(えぇ…っ?!)
「パーティーで何かあったのですか?」
そう尋ねるアレンに、青ざめた表情のルコットは動揺を隠しきれないように答える。
「ぼ、僕にもさっぱり分からないのです。招待状を持って受付を終え、先に会場に入ってもらっていたサーシャ様と合流した途端、“もう帰りたい”と言われてしまって…。あぁっ!サーシャ様に何かあったら、僕…っ!」
(どういうこと…?)