潜入恋愛 ~研修社員は副社長!?~
「ご馳走様でした」
お礼を言ってリビングを出ようとしたが、香純の母に「待って」と呼び止められてしまう。
振り返ると、彼女は「忘れ物よ」と言いながら香純を指差して、「連れてって」とお願いし、彼女にも「さっさと用意をしてきなさい」と促す。
「これから私達二人だけの時間が始まるから」
じっくり話し合いましょう…と言う妻に狼狽気味の夫。
香純はそんな両親にクスッと苦笑すると部屋から荷物を持ってきて、「行きましょう」と声をかけ玄関先へと向かいだす。
その後を追いかけるようにやって来る父親は、ずっと無言だったが唇を開き、彼女の名前を呼んで振り向かせた。
「香純」
「なあに?」
明るい声で父を振り返り、小首を傾げて見つめる彼女。
彼はそんな娘に目元を細め、車内で俺が言った言葉を放った。
「子供の頃、寂しかったか?」
そう問われて一瞬キョトンとする香純は、今更何?と思う様な顔つきで両親へと目を向け、それからチラッとだけ俺の方を振り返った。
「…別に」
淡々と答えると「毎日のようにお母さんが一緒だったから」と理由を話す。