潜入恋愛 ~研修社員は副社長!?~
「隣のブースにいた関係者の方なの。朝から顔色が悪そうに見えてたから、大丈夫ですか?と訊いたら、急に貧血を起こされて…」


それで暫く付き添ってようと思っただけだと言う彼女は、相手に「大丈夫ですか?」と小声で訊ねている。



「なんだ…」


ガクッと肩の力が抜け、早合点した自分を恥ずかしく思いながらも、香純と会えた喜びでその反省は直ぐに忘れ、名前を呼ぼうと唇を開けかけた。


「かす…」
「香純?」


声が被り、ハッとして後ろを振り向く。背後にはワイシャツ姿の男性が息を弾ませ、呆然と目を丸くさせて立っていた。


(誰だ、こいつ…)


馴れ馴れしく香純を呼び捨てにしやがって…と睨み付け、同じ社内の人間か?と凝視する。


「あっ」


香純は短い声を漏らしたまま息を呑む。
その雰囲気を感じ取った俺は確かめるようにまた前を振り返り、目を剥いたたまま固まる彼女の様子を視界に収めた。


「さっ……嘉多山さん」


慌てたように名前を呼び直し、気まずそうに目線を背ける香純。
相手の男も合わせたように「百瀬さん」と呼び変え、足を進ませながら彼女の側に横たわる相手に近付こうとした。


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