潜入恋愛 ~研修社員は副社長!?~
「悪い。うちの社員が迷惑かけて」


嘉多山と呼ばれた男は、俺の前を擦り抜けると香純に近寄りながら謝罪の言葉を口にする。
その相手に、彼女は「ううん」と首を振り、側を空け渡そうとして椅子を避けた。


「大丈夫か?」


優しい声色で相手を気遣う男は、目を閉じている女性の手を取り上げる。
側でじっと見守っていた香純は、何を思ったのか急に目を見開き、立ち上がると俺の方に目線を向けて、きゅっと軽く唇を噛みしめた。



「うーん…」


か細い声と共に臥せっていた女性の目が細く開き、男はその女性に更に近付くと額に手を乗せ、「無理はするなよ」とまた優しく囁いている。

その声を聞きながら、香純はまたきゅっと唇を噛み、その場を離れようと歩き出した。
二、三歩進んで俺の方へとやって来ると口角を上げ、なんとも言えない顔つきで微笑みを浮かべる。


(何だ…)


その意味ありげなその顔つきはなんだ…と意味が分からず、男女の方へと目線を向けた。


< 280 / 307 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop